【子を想う母の強さ】八日目の蝉/角田光代
概要
誘拐した子を育てる女、そして月日が流れてその子が大人になったときの話。
おすすめポイント
女性が子供のために生きるパワーを感じる作品でした。決意の力と言い換えてもいいかもしれません。
感想
あくまで母と子の関係を描いたものであり、男は蚊帳の外でしたね。むしろ情けない存在としか描かれない。逆に女性たちは本当に強いです。皮肉だなぁと思ったのは、子を愛おしく思い、慈しむその姿の美しさが、逃亡に終止符を打たれる原因を作ってしまったこと。そのエピソードにも、男性にはない何かを感じます。
タイトルの蝉の話はちょっとしっくりこなかったです。8日目のセミは他のセミには見れない世界を見る。それは何に繋がっているのでしょう。
『でも、もし、七日で死ぬって決まっているのに死ななかった蝉がいたとしたら、仲間はみんな死んじゃったのに自分だけ生き残っちゃったとしたら(中略)そのほうがかなしいよね』
蝉の話題よりも、僕は育ての親との繋がり、家族との繋がりに目が行きました。
『私はあなたとは違うから、男の言葉をそんなにかんたんには信じないんだよ。あなたみたいに馬鹿じゃないから』
『「こんなはずじゃなかった」と思う場所から、一歩も踏み出せなかった私たち。好きや嫌いではなく、私たちがどうしようもなく家族であったことに、私は今気づく。』
繋がりを意識せずには生きていけないのでしょうね。『どうしようもなく家族であったこと』とはすごい言葉です。
『憎みたくなんか、なかったんだ。私は今初めてそう思う。本当に、私は、何をも憎みたくなんかなかったんだ。あの女も、父も母も、自分自身の過去も。憎むことは私を楽にはしたが、狭く窮屈な場所に閉じ込めた。憎めば憎むほど、その場所はどんどん私を圧迫した。』
憎むだけではなにも解決しない、気休めになるかもしれないが、解放されたのではない、といった感じでしょうか。
最後は、本当にじんわりとしたラストでした。まさしく、波が静かに揺れ続ける海のような。すてきな作品だなぁと思いました。