【宇宙はここまで解明された】書評:宇宙は何でできているのか/村山斉
概要
2011年度の新書大賞を受賞した一冊。宇宙を専攻する東大教授が、宇宙研究の最前線を解説します。
おすすめポイント
バランス感覚に優れた良書だと思います。初心者向けですが、適度に難しい話も書かれています。混み入った話は省き、大局を失いません。宇宙に興味がある方なら誰でも楽しめる内容です。
感想
この本の副題に入っている素粒子という言葉。これは物質を構成する最小単位に迫る研究で用いられる言葉で、非常に非常に小さい粒子です。なぜ、巨大な宇宙の謎を解明するために、素粒子の研究が必要なのか。それを解説するために著者の村山さんは、ウロボロスの蛇をたとえに出します。蛇の頭の方に目を移していくと広大な宇宙があり、しっぽの方には素粒子の世界があります。ウロボロスは自分の尾を噛んで全体として一周している。宇宙と素粒子はこのような感じで、対極にありながらもお互いに密接な関係があるそうです。いろいろ細かい話は忘れてしまいましたが、この話は頭に刻まれました。
大まかな流れとしては、ニュートンが重力を発見して以降の宇宙の研究の進展が記されています。タイトルの「宇宙は何でできているか」に迫るため、物質を構成する最小単位は何かという謎に迫っていきます。当初は分子や原子だと考えられていたそれは、陽子や電子になり、さらにクォーツという単位に分けられることが次々に解明されてきました。
宇宙の研究で面白いなと思ったことは、先に予想がなされるという点です。「こういう風になっていれば現象を正しく説明できる」と言い出す研究者が現れ、その理論があまりにも突拍子ないと笑われたりもするのですが、のちに実験によって正しかったことが証明される。何度もそのプロセスが辿られた結果、いまの成果があるのだと。他の分野では先に理論で説明がつかない現象があって、それを理論体系として作り上げるのが筋だと思っていたのですが、真逆なのですね。
暗黒物質についての説明もありました。これも非常に面白かったです。単なる空想上のものかと思っていたのですが、どうやら実在するようです。それどころか、暗黒物質がないと僕らの銀河は銀河系の中心から弾き飛ばされてしまうのだとか。得体の知らない物質に今の僕らは支えられているのですね。
本書の後半、話は近年の素粒子研究に移ります。ノーベル賞を取った日本人の成果も当然その流れの中に組み込まれています。宇宙分野のノーベル賞の受賞理由はとにかくわかりにくいですよね。もちろん、村山さんも説明には苦労しているのですが、その研究の意義は大まかに理解することができました。出版されたのは2011年なのですが、2015年度のノーベル物理賞の受賞者である梶田隆章さんが観測した「ニュートリノ振動」についても解説があります。この現象も存在が予想されているだけで観測されていなかったのですが、ノーベル賞を受賞したということは梶田さんがついに観測したということですね。
僕の受けたイメージでは、宇宙の始まりについてはけっこう解明が進んでいるのではないかと思ったのです。ビックバンの直後に何が起きたのかについての説明は多かったです。一方で宇宙の終わりについてはまだまだといった印象。宇宙の膨張のスピードが現在は加速しているらしいのですが、これが永遠に続くのか、またはどこかで減速に転じるのかはまだまだ分からないようで、様々な予想がなされています。
宇宙の始まりの話をしだすと、なんだか怖くなりませんか?なぜ宇宙というものが始まったのでしょう。始まる前はなにがあったのでしょう。宇宙がなくなったら何が残るのでしょう。そこについてのコメントは一切ありませんでした。誰にもわからないことですし、宗教の話にも絡んできますものね。でも、僕が一番気になるのは実はそのへんだったりします。僕は何のためにここにいるのでしょう。その理由を知るには僕はあまりにも小さい存在で、逆にカギを握る素粒子を調べるにはあまりにも大きい存在です。僕が死ぬまでに、どこまでのことがわかるでしょうか。楽しみであり、ちょっと怖くもあります。今後も、このような宇宙に関する良書を読みたいなと思います。
2015年度の新書大賞
2014年度の新書大賞