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【書評】キケン/有川浩

 

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

 

 

概要

 有川浩さんが理系大学生の日常をテーマに書いた本です。文庫版に付いている解説がものすごく素晴らしいので、ぜひ文庫版で解説も読んでほしいと思います。

おすすめポイント

 何をするでもない大学生の日常がそのまま描かれています。ラストにじんわりくる感じがすごくいいなぁと思います。

感想

 藤田香織さんの解説がお見事過ぎて、そこにあることがすべてだなぁと思ってしまいました。

 読んでいるときは緩急のない、ゆるゆるとしたお話だなぁと感じていました。ちょっと退屈気味だったのです。男子の冒険心をそそるようなエピソードが並んでいて楽しんでいたのですが、いまいちパンチがないというか。

 しかし、解説を読んでなるほどと納得しました。回想形式になっているのがポイントだと指摘があります。このお話はすべて回想なので、美化された思い出が語られていて、キレイな部分ばかりが語られている、という見方です。

 「あえて緩急をつけない、ということを有川さんは意識的にやってのけた」と解説では言いきられています。ではそれはなんのためなのか。簡単に言うと最後の部分をより強調しているんだと思います。

 1章から順番に語られてきた「過去」と、最後の部分で語られる「今」の対比が見事です。自分が今、高校の学園祭に行って感じるような、あのなんとも形容しがたいあの切なさ。あれを有川さんは見事にコトバにしてしまっています。

 主人公たちが経験したような思い出、主人公たちが持っていた居場所、これらは形は違えど誰もが持っているものではないでしょうか。だから、この物語のテーマは理系学生の日常を描いたものではなくて、自分が一番輝けていた時間へ思いをはせる「今」を描いたものなんではないか、と思いました。(もちろん解説を読んだ後にです。それぐらい解説が素晴らしかったです。)

 

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